歯列矯正で抜歯が必要になるケース
矯正治療では、歯を並べる際に、どこかの歯を抜歯する必要がある場合と、どの歯も抜歯せずにできる場合があります。誰しも「抜歯をせずに矯正治療ができたらいいのに」と思うことでしょう。矯正歯科医も、まずは歯を抜かずに矯正治療をすることを考えますが、あごの骨の小さい日本人の場合は特に、抜歯をしなければならないケースが多いのが現状で、その比率は65.4%という調査結果があります。抜歯が必要となる歯並びのケースとはどのようなものなのか、もし、抜歯をしなければならないケースで抜歯をせず、無理やり歯を並べてしまった場合、どのような不都合が起きてくるのかについて見ていきましょう。
歯列矯正で抜歯をする必要があるケース
歯列矯正で抜歯をするかどうか、というのは、口もとの出っ張り感や骨格と歯の大きさのバランスなどで決まってきます。これには大きく分けると3つの場合があります。
1.あごの骨の大きさに対して歯が大きすぎる
2.上下のあごの骨の大きさや位置のバランスが悪い
3.歯並びが原因で口が出っ張って閉じづらい場合
具体的には、次のようなタイプの不正咬合において、歯列矯正で抜歯が必要になることが多いです。
重度の上顎前突(じょうがくぜんとつ)
顎前突とは、いわゆる上の歯が前に出ている「出っ歯」のことですが、重度の上顎前突の場合、前歯を大幅に内側に引っ込める必要があるため、抜歯をして間引きをし、そのスペースを利用します。
上下顎前突(じょうかがくぜんとつ)
上下顎前突とは、上下のあごと前歯が前方に出ている歯並びのことで、口元全体が前に突出しています。このケースでは、前に出っ張っている歯を引っ込めてまっすぐに立たせる必要があるため、抜歯をして歯を並べる必要があります。
重度の下顎前突(かがくぜんとつ)
下顎前突とは、いわゆる「受け口」の状態ですが、重度の場合には傾いている前歯を顎の骨にまっすぐ立たせる必要があるため、抜歯をしてスペースを作らなければなりません。
重度の叢生(そうせい)
叢生というのは、あごの骨の大きさに比べて歯が大きく、歯がガタガタに重なり合っているいわゆる「乱杭歯(らんぐいし)」のことです。歯をきれいに並べるスペース自体が足りないため、抜歯をしてスペースを作る必要があります。
歯列矯正とは「歯並びをきれいにするだけ」ではない
歯列矯正のゴールが、「ただ単に歯並びをきれいに整えるだけ」なら、抜歯をしなくても並べられるケースが多くはなるでしょう。ですが、歯列矯正というのは、ただ歯を並べるだけでなく、「しっかり噛めるようにする」「口をきちんと閉められる」というような機能面・健康面の改善とともに、「美しい口元」という審美面も考えて行わなければなりません。このようなことをトータルで考えた時に、抜歯をしなければならないケースというのが出てくるのです。
もしも、そのようなことをよく考えずに、抜歯せずに歯列矯正をしてしまった場合、どのようなことが起こってくるのでしょうか?
歯列矯正で抜歯が必要な場合に非抜歯で行ったらどうなるか
歯列矯正で抜歯が必要なケースなのに非抜歯でやった場合、次のようなことが起こる可能性が高くなります。
口元が出っ張った顔つきになる
並びきらない歯を抜歯せずに並べた場合、あごの骨に奥行きのない日本人においては、前の方に歯が出てしまう形になってしまいます。そのため、口元が突出した感じの顔つきになるばかりか、唇がきちんと閉められないことにより口呼吸を招き、虫歯・歯周病・口臭などを引き起こしやすくなります。
歯茎が下がり、老けて見える
並びきらない歯を抜歯せずに無理やり並べる場合、歯は歯の埋まっている歯槽骨の外側の方向に押しやられます。そうすると、歯が歯槽骨を越えて前に出て来てしまうことがあり、それに伴って歯茎が下がって老けた印象に見えてしまいます。
第二大臼歯がきちんと生えてこなくなる
抜かない矯正をするために、第一大臼歯を奥に移動させる方法がありますが、場合によっては、その後ろから生える第二大臼歯の生える場所を無くしてしまい、きちんと生えることができなくなってしまいます。
歯列矯正が終わった後の後戻りが起こりやすくなる
歯列矯正をした後というのは、どんな場合でも歯が元の位置に戻ろうとする力が働きます。これを防止するために「リテーナー」という取り外し式の装置をつけるのですが、リテーナーをきちんとつけていないと、歯並びがまた悪くなってしまいます。特に無理やり非抜歯で矯正を行ったケースでは、この後戻りが起こりやすくなります。