親知らずはなぜ斜めに生えてくるのか
親知らずは、最も奥にある歯ですが、きちんと生えていることは非常に稀です。多くの場合、歯の一部だけが生えていたり、斜めに埋まったままになっていたりします。まっすぐ生えてきていても、後ろ側が歯ぐきに埋もれたままであったりすることも珍しくありません。その結果、むし歯になったり腫れたりして辛い思いをする原因になっています。
縄文時代の古代人の骨にも親しらずが炎症を繰り返していたあとが残されており、人類ははるか昔から親知らずに悩まされてきたようです。斜めに埋まった親知らずの周囲で炎症を起こした化石も見つかっています。
どうして、親知らずはきちんと生えてこないのでしょうか。顎の大きさと親知らずについてまとめてみました。
親知らずってなに?
親知らずとは、正式名称を第三大臼歯といい、永久歯の中で最も奥に、かつ最後に生えてくる歯です。前から数えて8番目にあたる歯なので、歯科医師は「8番」と呼びます。親知らずの語源は、他の歯と異なり、親が子供の口の中を管理しなくなった年齢になってから生えてくることからと言われています。なお、英語では「wisdom tooth」と言います。知恵がついた頃に生えてくる歯という意味です。
顎の骨が小さくなっている?
実は人間の顎の骨は、小さくなっています。それは化石を比較することで裏付けられています。人類の先祖に当たる猿人、原人、旧人は、我々と比べて顎の大きさが非常に大きく、親知らずを含めて、全ての歯が生えても顎の骨にまだ余裕があったことがわかっています。ところが、新人の段階に入ると顎の大きさは現代人と比べて変わりない大きさに小さくなっています。
この違いはなんなのでしょうか。それは食生活の違いにあると考えられています。
食生活の変容をもたらしたもの
人類の先祖は、はるか昔は今の類人猿と同じような食生活を営んでいたと思われます。そんな祖先が肉食を覚えて、雑食性となったのは、400万年ほど前ではないかと言われています。この時代を猿人と言います。
草食は繊維質が多く、肉食と比べて食事にかかる時間が長くなります。しかも肉食は草食よりも栄養量が高いです。人類が雑食性になったことで、草食のみの頃と比べて食事の量も減り、そして時間も短くなりました。そして顎の仕事量も減少していきました。
次の変化は、火の利用です。100万年ほど前になると火を使って料理をすることを覚えました。火を使うことで食べ物が柔らかくなり、かむ回数が減少しました。
その後、道具の開発や改良、加工性の向上に伴い、さらにかむ必要性が低下していきました。このような食生活の変化の過程を経て、顎を使わなくなってきた結果、人類の顎の骨は小さくなってきたと考えられています。
歯と顎の骨の変化の違い
歯は、どの生物においても体の中で最も安定した組織です。数百万年単位で進化を見れば、歯の大きさも変化しますが、数万年くらいの幅では、歯の大きさは変化しません。新人はおよそ3万年前からと考えられていますので、時間的に顎の骨が小さくなっても歯の大きさがそれに伴って小さくなってこないのです。
したがって、顎の骨と歯の大きさが不調和をきたし、自然な状態では歯並びがきちんと整わなくなりました。そして、最後に生えてくる親知らずが斜めに生えたり、埋まったまま生えてこなくなったりする様になったのです。
親知らずの特徴
現代の人類は、顎の骨が小さくなった影響で、親知らずが生えてくるスペースが不足しがちになっています。そのため、他の歯と異なりまっすぐに生えてくることが少なく、多くは斜めに倒れて生えてきたり、まっすぐ生えてきても後ろ半分が歯ぐきで覆われたままになっていたりします。全く生えてこず、骨に埋まったままということも珍しくありません。
このようにきちんと生えてこない上に、最も奥にあるということで、歯磨きが非常に難しくなります。その結果、むし歯になりやすくなったり、化膿して腫れたりしやすくなります。
親知らずが化膿して腫れてきた場合は、その解剖学的な条件から顔まで腫れてくることも稀ではありません。それだけでなく、口を開けるのが困難になる、食べる時に喉が痛くて飲み込みにくくなるなど、食事自体が困難になるケースもあります。
親知らずは抜歯すべきかどうか
実際に、治療を行う前に親知らずを抜歯するメリットと残すメリット両面を確認しましょう。
抜歯するメリット
ほとんどの親知らずは、生える余地が少ないためにきれいに生えていることはほとんどありません。まっすぐに生えていても、歯ぐきが後ろ側を覆っていることも珍しくありません。そのために、むし歯や化膿のリスクを常にはらんでいます。親知らずを抜歯することにより、こうした炎症で苦しむリスクを減らすことができます。きちんと生えていない親知らずを抜歯することには、重篤な炎症の発生を予防するメリットがあります。
残すメリット
親知らずだからという理由で抜歯する必要はありません。まっすぐにきちんと生えており、なおかつ歯磨きが行き届いているなら、抜歯する理由はありません。抜歯する必要がないなら、残しておくべきでしょう。
残しておけば、仮に将来他の大臼歯がむし歯や外傷などの原因により抜歯せざるを得ない状況になった時、親知らずを抜いて移植することができる可能性が生まれます。また、親知らずの前にある第二大臼歯を抜歯した場合に、第一大臼歯がしっかりと残っていれば、親知らずを利用してブリッジにすることも可能です。ブリッジができれば、失われた第二大臼歯を補うことが可能になります。
親知らずを残しておくことにより、将来の治療の選択肢が増えるというメリットがあるのです。ただし、親知らずがちゃんときれいに生えている場合に限られます。生えるスペースがないのなら、残すよりも抜歯した方が良いことは論をまちません。
まとめ
親知らずは、人類の顎の骨が小さくなってきた影響で、きちんと生えることが難しくなってきました。多くの場合、斜めに生えてきたり、まっすぐに生えていても歯ぐきに覆われたままだったりしています。埋まったまま生えてこないこともあります。そのような生え方の状態でしかも最も奥にあるということから、親知らずの歯磨きはとても難しいです。そのためにむし歯になったり化膿したりしやすい歯になってしまいました。親知らずがちゃんと生えるスペースがないのなら、抜歯しておいた方が良いでしょう。