短期間の矯正治療の基礎知識や注意点

短期間の矯正治療の基礎知識

もう少し詳しく「矯正用アンカースクリュ―を用いた矯正治療」や「治療期間の短縮は出来るのか」、
「歯の移動スピードは変わるのか」ということについて考えてみよう!

余談ですが、インターネット上の情報では、
・「矯正用アンカースクリュ―・矯正用インプラントを使用すると短期間の矯正治療になる?」
・「矯正用アンカースクリュ―・インプラント矯正をすると、治療期間が短縮する?」

との情報も散見します。

実際はどうなの??
通常の矯正治療の場合、ある自分の歯を元にして他の歯を動かしていきます。しかし、この場合、綱引きの原理(作用反作用の原理)で本来動かしたくない歯まで動いてしまうことがあります。これでは治療上様々なロスが発生してしまいます。

TAD併用矯正の場合、固定されたスクリュー(TAD)を軸に、動かしたい歯のみにアプローチすることが出来、目的とした歯だけがスムーズに移動出来ることや数本の歯をまとめて移動することが出来るようになりました。

矯正用マイクロインプラント(TAD)

矯正用マイクロインプラント(TAD)には、様々な効果を望むことが出来ます。

例えば今まで困難とされていた移動(圧下、遠心移動)を比較的容易に行うことが出来ます。また今までは抜歯を行わなくてはならなかった方々でも、歯の抜歯を回避することが出来るようになりました。その他さまざまな効果が望めますが、表題の通り今回は、「TADは、治療期間を短縮させるために有用か」ということについて記載させて頂きます。

TADを併用すると歯の移動効率は確実にアップさせることが出来ると思います。登山に例えると頂上に向かって一気に効率よく登るというようなイメージでしょうか。ただし、あくまであなたの矯正医が、毎月の治療を毎回最も効率よく組み立て治療進行させることが出来るのが条件です。登山のお話に戻しますと、進む道が定まっていなければ何も変わらないということです。良い道具を使っても使いこなせる矯正診断能力が伴っていなければ治療効率が高まることもなく、折角付与したTADの効果は望めません。

また一番覚えて頂きたい内容は、登山に例えると山の登る速度(歩く速度)が上がるわけではありません。言い換えますとTADは、矯正の治療計画の中で歯の移動効率は、良好になる。しかし、TAD≠歯が早く移動する≠治療期間が短縮する、すなわち短期間の矯正治療とは少し異なります。

TAD併用矯正は、腕の良い矯正医であると広義の意味合いでは、治療効率が良い→治療期間が少し短めになる≒短期間の矯正治療かもしれませんが、厳密には短期間の矯正治療には含まれません。

もちろん治療期間を短縮させるためには、

「適切な治療計画」+「治療効率の向上:TADの併用」+「歯の速やかな移動現象」+「患者様の協力」=「良好な治療結果」+「短期での治療」の達成

と考えておりますので、TADは場合によっては有用ですが、TADを使用したから単純に治療期間が短くなることはありません。(矯正医の中でも、誤認識の方が多いためあえてご説明させて頂きました。笑)

デーモンシステム

デーモンシステムは、「ローフォース・ローフリクションテクニック」、「セルフライゲーティングブラケット」の代表的な装置です。このシステムの老舗というような矯正システムです。現在では、デーモンだけでなく幾つものローフォース・ローフリクションシステムがあります。

裏側矯正では、以下商品名Stb、クリッピーL、ハーモニー、表側ではクリアスナップ併用法、クリッピーなどがあります。ローフォース・ローフリクションは、直訳すると小さな力(ローフォース)小さな摩擦(ローフリクション)という意味合いです。

これらは、歯の並びを矯正する際にセルフライゲーティングブラケット&各種の超弾性ワイヤーを用いてアーチワイヤーをブラケットスロット内に位置づけし、より小さな力でより早く効率的に矯正を行う方法で、痛みの少ない矯正治療とスムースな歯牙移動を達成します。従来型の矯正治の場合、約7割が矯正時に痛みを感じるという報告もあります。

しかしローフォースローフリクションテクニックを用いると痛みの軽減が可能です。また従来型の治療に比べて、乱ぐい歯やがたがたの歯の並びは、みるみるうちにキレイな歯並びになります。要するに、でこぼこなどの乱ぐい状態は、短期間で修正可能です。

また噛み合せの状態にもよりますが、結果的に治療期間の短縮が可能な場合もあります。生理的に無理のない力をかけるシステムのため、体にもやさしく安心、安全な矯正治療法です。

次に期間短縮について実際の感想を記載させていただきます。

スマイルコンセプトでは、2020年現在、多くの方々が、ローフリクション・ローフォースの矯正システムを使用して治療を行っています。デーモンブラケットをはじめローフリクション・ローフォースの矯正システムを長年使用してきた感想をお伝えしますと、まずローフリクション・ローフォースの矯正システムは、非常に良いシステムだと思います。ブラケット装置と矯正ワイヤーとの間の摩擦抵抗の減少が歯の移動をスムースにし、従来型のブラケット装置と比較すると歯の移動を早め、でこぼこが早く治る、でこぼこが早く治る分期間が少し短縮したということは、実際数多く認められる効果です。そして歯に強い力・無駄な力をかけない為、当然痛みや違和感は少ない。強い力を掛けないので歯ぐきや骨に対しても優しい治療システムです。

しかしながらデーモンシステムやセルフライゲーティングブラケットを使ったから、トータルの治療期間が大幅に短縮したという症例は認められません。治療期間が2分の1になる、3分の2になる、等の効果までは望むことはできません。というのが正直な感想です。

2008年頃から海外の矯正学会でも、治療期間のことについて調べた研究結果が数多く発表されています。この研究結果をまとめますと「デーモンシステムを使ったからと言って治療期間が大幅に早まることはない」との結論です。口の悪いDrは、「治療期間が早まるなどと言うのは過剰広告だ」との指摘までしているほどです。2016年現在、前述の結論が現在のところ主流の考え方であると思います。

もっと詳しく知りたい方へ:短期間の矯正治療(歯の移動の速度アップ)のバイオロジー

昔はあごの骨を切断分割して骨と歯を一つのかたまりとして移動するので歯を速く動かすことが出来ると考えられていました。

しかしながら整形外科分野の研究結果から局所に加えた外科的な刺激がRAP ( Regional Accelelrated Phenomenon)を生じ骨吸収と骨新生を促進する現象を生じることと骨質の改造現象によって歯が速く動くことが解ってきました。

またその現象は骨刺激後の97%に生じること、刺激後の3日以内に現象が始まり、4~6ヶ月ほど続くという基本原理が分かってきました。この発見により、以降次々と新しい研究が進められ様々な治療術式が考え出されてきています。

Acceleration Biology

Acceleration Biology

The use of pharmaceutical (vitamins C and D, prostaglandin and osteoblast injections), electromagnetic stimulation, cyclic forces (vibration), laser and surgical stimuli in combination with light mechanical forces of some orthodontic systems for accelerating orthodontic tooth movement and inducing bone remodeling has attracted considerable scientific interest. What they all have in common is that their biological mechanism is based on a physiological healing process known as regional acceleratory phenomenon (RAP) (Fig. 1).

A cascade of events occurs with the initiation of tooth movement. The fascinating interplay of osteoblast and osteoclast communication to remodel bone is mediated by cytokine chemicals messengers.

Iatrogenic induction of trauma, intentional surgical injury of the periodontal tissue, results in receptor activator of nuclear factor-kappa ligand (RANKL) gene expression on the surface of osteoblasts. This increases osteoclast formation on the pressure side of the periodontal ligament during force application to an individual tooth. These factors, among others yet to be defined, result in bone remodeling and ultimately accelerate the movement of a tooth through alveolar bone.

治療期間の短縮を試みる矯正治療法の注意点

矯正治療を効率よく進める方法は様々ですが、適正な矯正診断と安定した技術による矯正治療を受けられ、さらに治療期間に関しても安心して治療を終えられることを望んでいます。

患者様自身が、早く装置を外したいと考えられるお気持ちは良く理解出来ます。しかしながら矯正治療で気をつけなければならないことを列記させていただきます。

矯正医院の選び方

白衣の歯科医イメージ

日本国内においては、矯正のみを行う矯正専門医院、もしくは一般歯科医院内でのアルバイト矯正医、もしくは矯正専門医以外のDrにより矯正治療が行われています。まずは、矯正専門医のように専門的に研鑽を行ってきた専門家ならではの知識と高い技術を持ったDrに治療を委ねることをお勧め致します。さらに高度の技術が必要なコルチコトミー等外科的手法を併用する矯正治療で、質の高い治療効果を得るためには、矯正歯科の知識、技術、経験はもちろん、高度な外科的手法、設備が必要ということ、また矯正だけの知識だけでなく歯周治療、歯周再生療法、顎離断手術等の口腔外科の専門知識、技術、設備も必要で、この両面の基準を満たす医療機関での治療がお勧めです。

矯正治療を受診される場合には、あなたの矯正担当医が十分な研鑽と経験を積んだDrであり、かつ矯正以外の歯周外科治療、歯周再生療法や外科的な学問を継続して学ばれているのか、日本国内だけでなく海外等の関連した専門学会にも継続して参加しているのか、担当医が実際のオペにも関与しているのか、矯正医以外の他人にオペを丸投げしていないかが重要な部分です。矯正医は、治療計画を立案し治療を実行するDrです。歯の移動を計画しているDrが実際の口腔内を確認しながら移動に見合ったオペを行うのが鉄則なのです。矯正+歯周病学・外科学等の知識力、技術力、医療機関の状況も確かめてから受診されることをお勧めします。

患者さまの心構え

就寝中の女性と目覚まし時計

一般的に身体の新陳代謝には個人差があります。骨の新陳代謝を遅らせる要因には、喫煙と糖尿病が明らかになっています。矯正治療は骨の新陳代謝を利用する治療のため、ワイヤー矯正、マウスピース矯正にかかわらず、これらをコントロールすることをお勧めします。

矯正治療中は、一般的に考えられている体に良いこと(よく睡眠を取る、適度に運動をする、よく噛んで食事をする、よく笑う、ゆっくりと入浴する等)を取り入れることを心掛けた方がよろしいと思います。その理由は、新陳代謝が活発になり歯の移動も良好になるためです。

治療基準を満たさず治療を終了してしまうことは避けましょう。突然患者様の都合により治療を終了したいとのご要望を要請してしまうケース。良い歯並び・良いかみあわせ、そして審美性の保たれたお口元には、一定の基準がございます。(「歯並び・かみ合わせの基準」もご参照ください)折角なさる矯正治療、一定の基準以上の治療結果を手に入れてほしいと思いますので、最後まで頑張って頂きたいと思っております。

患者さんのご希望に流されるまま機能的・審美的治療基準を満たすことなく終了してしまうケースです。上記と重なる部分もありますが、良い歯並び・良いかみあわせ、そして審美性の保たれたお口元には、客観的な基準がございます。随時担当医と相談を進めながら、患者様が十分ご満足いただける歯並び、かつ機能的・審美的な状況、この両者が得られた段階で終了することが望ましいと思っております。スマイルコンセプトでは他院にて治療を終了なさった患者様がその後気になる部分があると相談に来院され再治療を希望なさるケースが増えています。治療開始前に、治療目標を明確にされた上で治療を行う事をお勧めしています。

矯正治療は、患者さんの協力度のレベルも重要な要素です。矯正治療は医療者側だけでなく患者さんにも協力してもらわなければスムーズに進みません。医師と患者さまがお互い協力しあいながら最高の結果を手に入れて頂きたいと思います。

ご協力をお願いしたいこととは、例えば口の中に使ってもらう矯正用ゴムを使う指示があった場合には指示の通り毎日使う、虫歯ができないように歯科衛生士から指導された方法で歯みがきする、装置が壊れてしまわないように食事の仕方に注意するなど、患者さんの自己管理能力が高いほど治療は効率的で早く順調に終わります。

悪い癖が残ったまま装置を外してしまう

鏡を見る女性

悪い癖によって歯並びが悪くなってしまった方は、矯正治療中に不正咬合の原因の一つである悪い癖を治すトレーニングを行う事があります。悪い癖が残ったままにしておきますと後戻りの原因となってしまいますので、悪い癖が残っていないか、また継続トレーニングが必要かどうか確認しながら矯正装置を外す時期を考えられると宜しいと思います。

矯正装置を除去する際には、外すことのメリット・デメリットを確認してから装置を外すほうが治療を終えた後のことを考えると賢明です。

◆ 最後に
矯正治療は、矯正装置撤去後の保定期間がとても重要です。保定装置の正しい装着と装着時間、定期健診、そして悪習癖が、矯正治療後の歯並び・かみ合わせを左右します。

患者様の協力があってこそ、より良い口腔内環境を維持することができます。ご自身の良好な口腔内環境の維持のために、医院の指示を守って頂いた方が良好な結果が維持しやすいと思います。